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福岡高等裁判所宮崎支部 昭和33年(う)80号 判決

被告人 長友均 外三名

主文

本件各控訴を棄却する。

当審における訴訟費用は、被告人長友均、同加来寿市の平等負担とする。

理由

被告人長友均、同加来寿市の弁護人沢田喜道の論旨第一(事実誤認)について。

所論は、原判決が収賄者である被告人長友均の職務権限に属するとした農山漁村電気導入促進法による施設の建設に関する業者の選定、工事の監督指導、下検査、出来高証明の交付は、被告人長友の職務ではなかつた、というのである。

そこで、検討すると、農山漁村電気導入促進法、同法施行規則(昭和三一年農林省令第二八号による改正前の。)によると、昭和二八ないし三〇年中、都道府県知事は(1)区域内の農林漁業団体の申請により右団体の行う農山漁村電気導入計画を定めこれを農林大臣に提出する職務権限(原判決の判示する「小水力電源調査開発、農山漁村電気導入に関する調査、電気導入計画の樹立作成(電気導入のための施設計画、資金調達計画、電気機器導入計画を含む。)」に当るものと認める)を有していた(同法第二条)が、右計画に基いて農林大臣が定めた全国農山漁村電気導入計画により右農林漁業団体が行う発電、送電、配電施設の建設の指導は農林大臣および財団法人農山漁村電気導入技術相談所の職務権限に属していた(同法第七、八条、同規則第五条)のであるが、原審証人津田哲雄、藤沢繁雄、長友均(被告人長友に対しては除く。)の各供述、被告人長友均の履歴書(一、一四六丁以下)、事務分掌表(一六七丁以下)、宮崎県知事二見甚郷作成の「昭和二六年三月頃から昭和三〇年末までの部設置条例及び県庁分課及び事務分掌規則について」と題する書面(一、一五一丁以下)、同人作成の「電気事業に関する条例及び電気事業管理規程について」と題する書面(一、一六一丁以下)、宮崎県処務規程三冊(証第二六ないし二八号)、出張命令簿四冊(証第一五、一六、一八、二五号)、工事出来高証明綴(証第一七号)、農林省振興局長作成の「農山漁村電気導入促進法の施行について」と題する書面、被告人長友均の原審公判廷における供述、同人の検察官に対する昭和三一年三月四日および七日付各供述調書によると、被告人長友は、前記期間中原判示の職にあつて、法令に明記された前記(1)の宮崎県知事の職務権限に属する事項を掌つていたほか、前記農林漁業団体には発電、送電、配電施設の建設についての技術者に欠けていた事情もあつて、(2)右団体が農林漁業金融公庫に対してする電気導入のための融資申請の指導、(3)右団体が農林大臣に提出する電気導入事業計画書の作成提出の指導は勿論、(4)右団体が行う右施設の建設に関する業者の選定の指導、(5)工事監督の指導、(6)右団体が右施設の通商産業大臣の検査を受けるについての下検査、(7)右施設建設についての右団体への融資先に対する出来高証明の交付の事項をも掌つていたことを認めることができる。ころで、刑法第一九七条の職務とは、その公務員が法令上掌る職務のみならず、その職務と密接な関係にあるいわゆる準職務行為をも含むものと解するのが相当であるから、(一)右のとおり(4)、(5)、(7)の事項を被告人長友が事実上掌つていたこと、(二)右(4)、(5)、(7)の事項は前記(1)の計画を基本としてなされる施設建設に関するものであること、(三)前記農林省振興局長作成の書面によると、昭和二八年五月一九日当時同法を所管していた農林省農林経済局長から都道府県知事に対し、同法等の職務権限は前記のとおりであつたにも拘らず、右(5)の事項や同法が都道府県知事の職務権限としていない同法に関する事項をも行うよう指示していること、(四)その後昭和三一年六月二二日施行の同年農林省令第二八号により前記相談所が行うとしていた右(4)、(5)の事項を含む農林漁業団体が行う施設の建設の指導を都道府県知事が行うようになつたこと等を考慮すると、当時右(4)、(5)の事項を含む施設建設の指導が農林大臣および右相談所が行うと法令に明記され、被告人長友が右相談所の技術指導員を兼ねていたとしても、前記期間中右(4)、(5)、(7)の事項は、被告人長友のいわゆる準職務行為であつたと解するのが相当である。しかしながら、右(6)の事項は、農山漁村電気導入促進法と立法趣旨の全く異る法令による通商産業大臣の検査の下検査であるから、被告人長友の準職務行為と解するわけにはいかない。したがつて、原判決が前記(1)、(4)、(5)、(7)の事項が被告人長友の職務権限に属するとしたことに事実の誤認はなく、前記(6)の事項を被告人長友の職務権限に属するとしたのは事実を誤認したものであるが、本件の贈、収賄は右(6)の事項に関してなされたものではないから、右の事実の誤認は原判決に影響を及ぼすものとはいえない。なお、右(4)は原判決では業者の選定となつているが、これはその次の工事の監督の下に起訴状にない「指導」の文字を入れているところからみると業者の選定の指導の趣旨と解される。また、原判決が起訴状において被告人長友の職務権限に属するとされていた「農林漁業資金の融資あつ旋、発電、送電、配電施設の改良、造成、復旧に関する事業計画書の作成指導」(前記(2)、(3)に当る。)を原判決において認定しなかつたのは、本件贈収賄は右事項に関してなされたものではないので省略したものと解される。論旨は理由がない。

(その他の判決理由は省略する。)

(裁判官 二見虎雄 渕上寿 矢頭直哉)

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